日本政府拠出案件~トルコ~

UN Womenのエンパワーメントによってシリア難民の伝統的なジェンダー規範に変化

トルコは360万人以上のシリア人を一時的保護の枠組みで受け入れ、世界最大の難民受け入れ国となっています。UN Womenは2017年以降トルコ南東部、シリア国境近くのガジアンテップ市にあるSADA女性エンパワーメントと連帯センターにおいて難民女性やトルコの女性を対象に生計や心理社会的支援、また照会サービスや職業訓練を行っています。

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ゼフラ・アブドラ*がアレッポの北部の自宅に子どもたちと一緒にいたとき隣家が爆撃で破壊されました。2015年、この爆撃で彼女は夫を亡くしました。

「14歳で結婚させられてから家で子育てと家事ばかりしていましたが、突然家族の生活が私の肩にのしかかってきたのです。」

ゼフラと子どもたちは国境を越えトルコの南東部にあるガジアンテップ市に落ち着きました。ガジアンテップには42万人のシリア人が一時的保護のもと滞在しています。

生活は大変でした。「日々食つなぐのが精いっぱいで、頼れる人は誰もいませんでした。言葉も分からず収入もありませんでした。12歳の娘を結婚させることまで考えていたんです。」

UN WomenSADA女性専用センターに登録してから状況は改善に向かいました。センターには難民や地元の女性5千人以上が登録しています。ゼフラはセンターで新しいスキルやトルコ語を学び、そこで得た友人たちに支えられエンパワーされました。

センターは2017年に欧州連合(EU)のシリア危機対応地域トラストファンドと日本政府の支援を受けて、ガジアンテップ市とILO、トルコのNGOである難民申請者と移民との連帯組織(SGDD-ASAM)とのパートナーシップにより設立、難民と地元女性にアウトリーチ、心理社会的サポート、照会サービスの他に言語、職業訓練を提供しています。

「私がシリアで住んでいたところでは女性にはほとんど権利がなく家から外出することもまれでした。SADA女性専用センターでは新しスキルを学びそれによって家族を養う収入を得たいと思っています。今は外に出て他の生徒と問題を共有したりすることができます。」ゼフラはセンターでのトレーニングを受けた後ヘアサロンを開店したいと考えています。

センターに来てからゼフラは娘を結婚させることを断念しました。「夫が亡くなってから泣いてばかりいましたが、私自身、そして子どもたちも強くなりました。女の子は男性に守ってもらうだけではいけません。勉強して働き、自立する必要があります。」

2019年3月までに2千100人がトルコ語や仕立て、靴の製造、パッケージングなどの職業訓練のコースをセンターで修了しました。職業相談と起業支援の後ビジネスを興したり就職した人もいます。最近設立された共同組合を通して製造した商品などを販売する計画もあります。

UNWOMENのニーズアセスメントによるとトルコで一時的保護下にあり調査対象となったシリア人女性や女児のうち収入のある職業についているのは15%です。

伝統的なジェンダー規範やケアワーク、言語の壁や労働市場の状況などが多くの女性が労働に参加するのを妨げていると専門家は言います。また家を追われた女性はジェンダーに基づく暴力の被害に遭いやすいとも指摘しています。

「危機的状況下にあっては女性の権利は最も守るのが難しい権利の一つです。家庭内暴力や性的虐待などの被害にあった後多くの女性は絶望してここにやってきます。」SADA女性専用センターのコーディネーター、セダ・ドラネルは言います。「あなたには権利があって暴力は運命ではないのですよ、と言うと多くの女性は初め衝撃を受けますが、私たちの努力は実を結んで来ていると感じます。女性たちは自分たちの権利や夢について話すようになり、経済的に自立した人もいます。」

変化しているのは女性だけではないとILOトルコ事務所のフィールドコーディネーター、ビルゲ・チョバンは言います。同機関が開催した男性の関わりについてのセミナーはSADAセンターに登録している女性の男性家族たちの間で「予想外に高い」関心があったと話しています。

「多くのシリア男性はここでまともな収入を得るのが難しい状況にあります。その現実から保守的なジェンダー規範を変えざるをえなくなっているのです。妻たちが働くのをサポートしたいと思ってはいますがそれを肯定してほしい、また彼らの宗教的な考えにも沿っていると確認したいのです。」

難民女性をエンパワーするだけでなくセンターはトルコ女性も支援しており、地域と難民のコミュニティーとの関わりを強める役割も果たしているとガジアンテップ市の移民課長のオンデル・ヤルチュン氏は言います。「トルコに定住するシリア人というのは長期的な現実です。だからこそ彼らの社会的、経済的な統合は私たちにとってとても重要なのです。SADAセンターでの活動が終わった後も交流を続けている人もおり、センターは難民と地域住民がお互いを理解し支えあう素晴らしい機会を与えてくれました。」

SADAセンターの女性は自発的に草の根連帯グループ、「明日の女性委員会」を立ち上げ話し合いや社会、文化、スポーツ活動などのイベントを開催しています。

SADAセンターは広く成功事例として認識されています。」UNWOMENのジェンダーと人道スペシャリストのイリス・ビョルグ・クリスチャンドッティルは言います。「女性がエンパワーされ労働市場や社会生活に参加すれば、それは家族だけでなく社会全体としての重要な変化となります。」

「さらにそれは社会的な連帯を強めグループ間の緊張を低下させます。長期的に女性が家長となっている家庭の経済的自立、福祉のほか彼女たち、また彼女たちの家族の将来的な可能性を広げることに繋がります。」

*個人情報保護のため名前は仮名を使用しています。


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