「女性が自分のキャリアを犠牲にしなくてもよい環境を作っていくことが必要」 UN Women (国連女性機関) インドネシア国事務所代表兼ASEAN連絡責任者ジャムシェッド・カジ氏来日インタビュー

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Jamshed

 

UN Womenで働き始めたきっかけ・衝撃的だったこと 

Q. どうしてUN Womenで働こうと思ったのですか? 

直接的なきっかけは、私がUNDP (国連開発計画) で働いていた時に、エマ・ワトソンUN Women 親善大使のHeForSheに関するスピーチを聞いたことです。彼女はスピーチの中で、ジェンダー平等は女性だけの課題ではなく、男性や少年たちがもっとジェンダー平等に向けた取り組みに関わっていく必要があると話していました。それが私にとってはとても興味深いことだったのです。私は以前からジェンダー課題に興味がありましたが、男性である私をUN Womenが必要としているとは思っていませんでした。UN Womenで男性にも果たせる役割があるということに感動し、UN Women で働こうと考えました。 

 

Q. UN Womenで働いていて、今まで最も衝撃的だったことは何ですか? 

それはパキスタンで働いているときに知った"ドクターブライド"(doctor bride:医者である花嫁)という文化です。パキスタンでは、両親が自分の娘に対して医学部に行くよう強く勧めることがよくあります。しかしそれは、将来自分の娘が医者として立派に働くことを期待しているからではありません。娘が医者であるということが結婚に有利に働くからなのです。男性側は、家に医者である妻がいれば、もし家族の誰かが病気になっても、その妻が面倒を見ればいいと考えて結婚したがるのです。(たとえ妻が医者であろうと、)妻の役割は専業主婦として家族の面倒をみることであり、病気を患う何千もの人を助けることではないのです。こうした背景からパキスタンには家にいて外で働いていない女性の医者が何千人もいるのです。これは優秀な人材の無駄遣いとしか言いようがありません。

 

Jamshed

 

アジア太平洋地域やインドネシアにおけるジェンダー課題

 Q. アジア太平洋地域における喫緊のジェンダー課題は何だと思いますか? 

それは(女性の経済参画を進める上での)“誤認”だと思います。私はよく、女性の経済参画を進める上で、女子に対する教育を拡充していくことが最も重要なことなのだと耳にします。たしかに教育の拡充は必要なことです。しかしアジアの多くの地域では、女子は男子と同じように学校に通うことができています。つまり、私たちが本当に注目しなければいけないことは、教育上でのジェンダー平等が達成されつつあるのに、それが経済参画におけるジェンダー平等に結びついていないという状況です。問題は、学校を卒業後、すぐに結婚するよう言われたり、職場でハラスメントを受けたりすることが、女性の経済参画を阻んでいることなのです。また、若い時期は働けたとしても、結婚や出産を機に職場を離れなければならない女性も多くいます。女性が(結婚・出産の際に)自分のキャリアを犠牲にしなくてもよい環境を作っていくことが必要なのだと思います。 

 

Q. イスラム教では女性・男性それぞれの役割が決められていると聞いたことがあり、それがジェンダー平等達成の障壁になることがあるのではと考えます。たくさんのイスラム教徒の方が暮らすインドネシアにおいて、ジェンダー平等はどうすれば達成できると思いますか?

(あまり知られていませんが)イスラム教徒かつフェミニストでもある人はインドネシアにたくさんいて、例えば、児童婚はイスラムの教えに反する行為だとイスラム女性指導者たちによって否定されているのです。UN Womenの職員はそのように先進的な考えを持つ指導者たちと連携し、(それぞれの管轄国において)国際的な条約や取り決めをどのように宗教的な信条と結び付けて活用していけるのかということを模索しています。人々の生活や考え方のベースに宗教が存在する国では、(ジェンダー平等を目指すときに)宗教の教えの解釈は一つではないことを念頭に置き、宗教の信仰とジェンダー平等の実現を両立させられる方法を考えることがとても重要だと私は考えます。 

Jamshed

 

男性とジェンダー課題

Q. 男性や少年はジェンダー平等に向けた取り組みにどのように関わっていけばいいと思いますか?

女性がジェンダー平等を目指す取り組みの最前線に立ってリードし、男性は味方として女性をサポートする必要があると思います。男性や少年が主導権を握ってはいけないと思うのです。なぜなら男性は、例えば出産がどのようなものか、女性が受けるハラスメントがどのようなものかを体験することはできないからです。したがって、私はUN Womenインドネシア国事務所の代表として発言するときは、女性の声の代弁者とならないよう気をつけていますし、男性や少年たちにも「あなたの気持ちはわかる」と女性に対して言える立場ではないということを伝えています。男性や少年ができるのは、当事者である女性や少女の声を増幅させることなのです。一方で男性は、女性よりも同性である男性に対してより心を開いて話す傾向にあります。だからこそ、(男性により効果的にメッセージを伝えていけるという意味で)ジェンダー平等に向けた取り組みには女性だけでなく男性の参加が必要なのだと思います。 

 

Q. UN Womenで働くモチベーションは何ですか? 

それは、男性である私はそれだけで下駄を履いているのだという自覚です。例えば夜にタクシーに乗ると、男性である私は何の懸念も無く眠ることができますが、もし自分が女性だったら、もう少し警戒した態度をとるでしょう。また夜に一人で道を歩くとき、男性である私は周囲を警戒したり、誰かが襲ってくるかもと心配したりすることはありません。女性が平等な市民として扱われる未来をみたいという情熱が私を突き動かしており、私にできること、また私の周りの男性を説得してできることがあるなら、積極的に変化を起こしていくことが重要だと信じています。 

 

メッセージ

Q. 将来開発分野で働くことを考えている日本の若い世代に向けて何かメッセージはありますか?

日本は高度に発達した経済大国であり、若い世代の皆さんは幼いころから恵まれた素晴らしい環境に置かれていると思います。(そんな環境で生きてきた)皆さんがもし世界のために何かしたいと思うのなら、若いうちに色々な国を見て回り、頭を悩ませるのはとてもいい経験になると思います。実際に現地に足を運んで行う草の根の活動は、将来どのような開発関連の組織で働くにしても非常に重要な経験となるでしょう。 

 

 

【略歴】

ジャムシェッド・カジ氏は2019年よりUN Women (国連女性機関) インドネシア国事務所代表兼ASEAN連絡責任者として勤務。民主的ガバナンス、プログラムマネジメント、機関間調整、人権、女性のエンパワーメント、環境政策の分野において、25年以上の多様な現場経験と上級管理職としての経験を有する。Harvard University’s Kennedy School of Government とthe London School of Economics and Political Scienceにて、行政学、開発学、環境アセスメント・評価学の修士号を取得。バングラデシュ出身。