「日本は奇跡の国!そんな日本だからこそジェンダー平等もリードしてほしい」次期アジア太平洋事務所長 ムハンマド・ナシリさんへのインタビュー

UN Women(国連女性機関)次期アジア太平洋地域事務所長 ムハンマド・ナシリさんにインタビュー

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ムハンマド・ナシリ

ハーバード大学において行政学と国際開発学、オックスフォード大学において社会人類学修士号取得。エジプトのアレクサンドリアにある科学技術のアラブ・アカデミーにおいて経営学修士号取得。2012年から2015年においてはアラブ諸国の地域事務所次長を経て、2015年から2018年においてはアラブ諸国地域事務所所長として、ジェンダー平等・女性や女児のエンパワーメントに従事。本年4月からUN Womenアジア太平洋地域事務所所長に着任。

 

mohammad interview  

 

   UN Women(国連女性機関)で働くことを決断された理由はなんですか?

 

国連で働いて25年が経ちますが、UN Women(国連女性機関)で働いてきたこの7年間は本当に楽しく興奮に満ち溢れていました。仕事の機会を重ねていくにつれ、よりUN Womenで働くことの楽しさと面白さを実感しています。

私がUN Womenで働きたいと強く願い始めたのは、アラブの春と呼ばれる運動が起き、女性達がより良い明日の為にと路上に出て抗議をしたり、歴史を動かすような出来事が起きている真っ只中のことでした。イエメン等の国では、古くから続く性差別の風習が未だに存在するにも関わらず、その地域で女性達が共に声をあげ、瞬く間に街が女性によって占拠されていったのです。広場に行くと全身を布で覆っている女性の集団に出会いました。彼女たちの顔は見えませんでしたが、彼女たちの声、力強さをとても強く感じました。そのような光景を見ている時、私は「もし、彼女たちの運動を続けることを手助けし、より確固たるものにすることが出来たならば、私は後悔することなく、何かをやり遂げたと言えるのではないか」とふと思ったのです。7年間の道のりを振り返ると鳥肌がたちます。「自分は正しいことをしてきたのだ」と。

 

 

   次期アジア太平洋地域事務所長になる上で、今後のビジョンと何を成し遂げたいか教えて下さい。

 

自分自身のことを事務所長とは思っておらず、むしろチームの一員として見ています。私は誰かに指図をするためにいるのではありません。私の目標は何百、何千もの女性や女児の人生に影響を与えることが出来るようなチームの一員になることです。そのためにはこれまでのUN Womenのビジネスのやり方を変える必要があります。小規模なプロジェクトを重ねるのではなく、一度に何百、何千、いや何百万人もの人生に影響を与えたいのです。しかし、これを実現するには私たちが今ある任務を包括的に捉える必要があります。第一線でのプロジェクトに加え、政府や市民社会等の様々な立場の人と協力しながらジェンダー平等実現のための行動を起こす必要があります。そのためには2020年に開催される「北京+25[1]や「132520[2]、「UN Women10[3]、「SDGs5[4]等の機会を上手に活用しなければなりません。

ジェンダー平等をより世界中で達成させるためにはUN Womenが主体となり行動していく必要があります。我々UN Womenは比較的小規模な国連機関ですが、正々堂々大きな機関と協力していくべきです。それが国連の事務総長が我々に与えた任務なのですから。我々は決して遠慮する必要はありません。それよりむしろ全ての機関がジェンダー平等の為にやるべきことをするように求めるべきです。何百万もの女性の人生に影響を与えるべく、我々はジェンダー平等に関する規範、政策、そして法的枠組みを策定し、これらの活動を皆さんにお伝えしていきます。

何年か後、私がバンコクでの任務を終了する際に、これだけの数の法律をよりジェンダー平等になるように変え、これだけの数の女性が我々のプログラムを通して利益を得ることが出来、これだけの数の女性と女児をUN Womenは支えることができたと胸を張って言えるようにすることが私の目標です。そして私はこの数が何百万という単位であることを願っています。

 

   UN Womenの現職で働かれていると大変なことも多くあると思いますが、ムハンマドさんに力をくれるもの、モチベーションは何ですか?

 

私に毎日力や前に進む動機を与えてくれるものは二つあります。

一つ目は我々と共に働く、若しくは我々のプロジェクトの対象となっている女性と女児です。私はどこの国であろうとミッションに行くと、必ず彼女たちと共に座り、話を聞くようにしています。彼女たちの話は私に、前に進み続ける力をくれます。

もう一つのモチベーションであり、落ち込んでいる時に活力をくれるのは、一緒に働けることを光栄に思える同僚やチームの皆さん、あなたです。私はUN Womenの前に3つの機関で働いたことがありますが、UN Women職員のコミットメントを超えるものをみたことがありません。彼らは快くいくつもの仕事を掛け持ち、複数の役回りをこなし、休日も関係なく働いています。何千マイルも遥か遠くに子供を残し、ただジェンダー平等実現の為に強い志を持って闘う同僚の姿をみて、活力が湧かないはずがありません。

 

 

   今この記事を読んでくださっている日本の皆さんになにか一言メッセージをお願いします。

 

私は中東で生まれ育ちました。私の祖父は1950年代と1960年代に日本に訪れ、その際に「異なる惑星、日本」という本を執筆しました。このような名を祖父が名付けたのは日本はここ5、60年で多くの奇跡を生み出したからです。誰一人として、またどこの国も成し遂げたことのない奇跡を日本は起こしたのです。そんな日本であれば、ジェンダー平等もリードすることができるはずだと私は確信しています。HeForSheの初代インパクト・チャンピオンの一人でもある安倍首相がWAW!(国際女性会議)でも言っていたように、ジェンダー平等実現に向け、全身全霊で取り組んでくれることを期待しています。

要するに、私は皆さんに日本全体でジェンダー平等達成に向けたアジェンダを推進していってほしいのです。女性だけではなく、もっと多くの男性が平等実現に向けて具体的なアクションを取るべきです。更に多くの男性の姿をみたいですし、企業も巻き込んでいくべきです。そして、一般市民、メディア、政府などがジェンダー平等実現に向けた圧力をかけるのを見たいのです。現在日本には20人の大臣がいますが、女性の大臣は一人だけです。私は日本ならもっとよくやれると確信しています。日本の為にだけではなく、世界のために変革が必要です。なぜなら日本がそれをしたならば、他の皆もついてくるのですから。

 

   最後に何か伝えたいことはありますか?

 

UN Women日本事務所はもう一つの日本の奇跡です。なぜなら本当に多くのことをこの小さな規模で回しているのですから。私は今、とても有能なインターンと話しをしていますが、このオフィスでは、インターンを含め全員の職員がフルパワーで活躍をしています。UN Womenはまだまだ発展途上ですが、日本のビジネスコミュニティや政府、市民社会にとても尊重されていると感じています。私はそれをWAW!(国際女性会議)や外務省で実際に目の当たりにしました。これら全てのことはUN Women日本事務所の皆さんの存在がなければ起こり得ませんでした。ですので、本当にUN Women日本事務所の皆さんには敬意を表したいと思います。ありがとうございます。



[1] 「北京+25:1995年に開催された北京女性会議において画期的な行動綱領が策定されてから25

[2] 132520」:2000年に開催された国連安全保障理事会で画期的な条文1325が決議されてから20

[3] UN Women+10」:UN Women設立20周年

[4] SDGs+5」:SDGs(持続可能な開発目標)が掲げられてから5