第10回:石川かおりさん ジョージア国事務所所長
UN Women(国連女性機関)を代表して教育科学省副大臣と女性への暴力撤廃活動協力覚書の調印式にて署名を交わす石川かおりさん。 (Photo credit: Leli Blagonravova/UN Women)
【経歴】
International Institute of Social Studies (ISS) of Erasmus University Rotterdamにてジェンダーと開発学修士号終了。NGOのジョイセフ(JOICEP)にて国際協力の道を切り開き、UNVとしてラオスで国連組織へのキャリアをスタートした後、JPOを通じて国連人口基金(UNFPA)へ勤務。その後、2021年より現職。
石川さんは、20年以上にわたり、20カ国以上で平和、人道、開発プログラムを管理し、政策やアドボカシー活動にも携わってきた豊富な経験を持っていらっしゃいます。
ジョージアで実際に住まれてみて、どういった印象をお持ちですか?
着任からもうすぐ一年経とうとしていますが、ジョージアは人が明るく親切で、治安も良く、歴史的な建物もあれば自然も都市部から近い、とても住みやすい国です。国連職員の中ではとても人気のある赴任地で、豊かな文化や歴史のある国に赴任できて光栄に感じています。
女性が活躍している国という第一印象がありましたが、男女差別問題の課題はまだまだ沢山あります。例えば、日本でもそうですが、家の中の仕事は女性の仕事という考え方は変わっていません。家の外の仕事に関しては、女性の方が高等教育を優秀に卒業しているのに、男女の賃金格差は3割ぐらいあります。
また、治安が良い一方で、アブハシヤや南オセチアなど、国際的にはジョージアの国土の一部として認められているものの、ジョージア政府の支配下にない地域があります。UN Womenを含める在ジョージア国連組織は残念ながら南オセチアでの活動はできないのですが、アブハシヤでの人道支援を長年続けています。国連職員でなければ活動できない地域で、女性達と直接話し合いを出来ることは本当に特別な事だと感じています。
さらに、ジョージア事務所は南コーカサス地域の女性の経済支援事業でアゼルバイジャンとアルメニアも管轄しています。なので、ジョージアだけではなくその周辺国の事業にも携われるのはやりがいを感じます。
UN Womenで働こうと思ったのはなぜですか。
前職のUNFPAでジェンダースペシャリストとして働いていたころ、UN Women がどのようなことをしているか、ずっと興味がありました。現在、国連は組織内の連携強化をしており、出向が奨励されています。これまで、アフガニスタン、ミャンマー、インドネシア、ラオス等アジア拠点が多かったため、他の地域で挑戦したいと思ったと同時に別の機関に足を踏み入れることで国連で働く上で有意義になると思い、応募し、採用されました。
UN Womenは国連の中でも女性のエンパワーメントや男女平等をリーダーシップをとってやっているところだと思っています。前職のUNFPAでもリプロダクティブ・ヘルス事業に関わるところでジェンダーの視点を取り入れることや女性のエンパワーメントすることが社会課題解決の糸口になってきますが、UN Women はもっと戦略的なレベルで、「男女平等」や「女性のエンパワーメント」という基本原則を打ち出し、国連の中の調整を行っている組織です。
UN Womenでの仕事内容を教えてください。
事務所の管理(資金の使い道をポリシーに則って決定、職員が働きやすい環境づくり)、アドボカシー(国民や政府に対しての啓発活動)、資金調達、ドナーとのネットワーキング、調整(他の国連との連携やその他会合)、そしてチームをまとめることが主な仕事です。業務の大半を占めるアドボカシーに関しては、ジョージア政府へUN Women が行っている事業を伝えたり、女性の生活に関わる問題点を指摘し、提言をしたりしています。例えば、ジョージアでは出産・育児休暇は国が負担する仕組みがあります。その手当に関して、申請が可能な期間が非常に短く、3か月で300ドルで、その社会補助金が最低賃金よりも低いという問題があります。そのような課題に対して、女性が子供を産んで、労働力として戻ってきてくれるためにどうすればよいのかを政府と話し合っています。その時の重要な点としては、国民の利益ももちろんですが、国としてどのような利点があるのかを述べることが重要だと思います。必要な情報をUN Women 職員が調査をし、アドボカシー活動をする例もあります。ジョージアの政府担当者や国会議員の方々はとても優秀で、いろいろアイデアを出してくれたり、こういう支援をして欲しいと意思表示がはっきりしているので仕事にやり甲斐を感じます。
また、企業との関わりも多くあります。例えば、TBC銀行というジョージアの民間銀行の管理職の方々に、女性が活躍できるようにお話をするアドボカシー活動も行っています。
UN Womenジョージア事務所では経済支援した女性が現在どのような活躍をしているのかモニタリングを行っています。私は、事業現場への訪問は一か月に1回か2回必ず行くようにしています。行くことで元気がもらえ、見たことを他者へ伝えています。紛争から非難した女性がたくさんいる地域へ訪れた際、避難した女性と今抱えている問題等を直接話を聞く機会がありました。
また調整業務ではUNFPAとUNDPのジョイントプログラムがあり、事業の交渉や進め方を話し合ってたりしています。国連の中でも連携を強めるために、リーダシップを取り、月に一回、他の国連の代表と話す機会を設けたり、多様なステークホルダーと話し合いを行ったりもしています。
ジョージア西部のグリア州で紅茶のパッケージング支援事業の女性の経済支援活動プロジェクトの視察をする石川かおりさん。(Photo credit: Leli Blagonravova/UN Women)
仕事での難しさや、やりがいを教えてください。
UN Women としては通常、配偶者暴力-DVに関する問題であれば、警察や裁判所など、国の組織との連携、アドボカシー、国会議員との法律整備などの活動が不可欠です。でも、国際社会、国連の加盟国が国として認めていない地域などは、そういった支援が出来ません。それは歯がゆさを感じます。本来はもっと支援ができるのに残念です。ですがそういう時こそ、自分達が何を出来るかを考え、状況に合わせた対応を取ることが重要です。
やりがいは、頑張り屋のスタッフをみて外部の方にUN Womenが行っている事業を伝えることや私たちのアイディアを売ることです。私は自分たちが行っている仕事を誇りに思っています。また、ドナーへの信頼からさらに協業したいとお声がかかった時はうれしかったです。実際に欧州復興開発銀行(EBRD)や世界銀行と活動ができることは大きなインパクトを生み出す機会のためとても楽しいです。
国連での仕事は厳しい面も多いかと思いますが、それでも成し遂げようというパワーの源は何でしょうか。
国連機関の中でも仕事のやり方が少し異なっていることがあります。そのため、UNFPAから転身した際は、新しいやり方を学ぶ必要性があったので、確かに戸惑いはありました。
ですが、周りの助けも乞いながら今ではUN Womenでの仕事に慣れてきました。私は、現場の声を聴くことでもっと草の根の女性のために頑張りたいなと活力をもらっています。私が出会った女性の話で今でも印象に残っていることがあります。地方で15歳の時に結婚、出産し、配偶者暴力-DVを経験した女性とお話をしたときにUN Womenの支援に感謝されました。大変な人生を送っているけど、UN Womenの支援のおかげで、少しずつ自信が持てるようになって、今では自分のカフェを営んでいると話してくれました。経済的自立のみならず、そのカフェを通じて同じような経験をした女性の自立支援活動をしていることに感動しました。そういう話を聞くと私ももっと頑張って持続的な活動ができるといいなと思います。
また、アブハジアの紛争から非難した女性もUN Womenからの支援を受けながら、経済的な自立をし、そこから今では地域の議員さんとして同じような女性の声となって活躍されています。そのことを知り、他の人を助けたいという情熱をもった女性に感銘を受けました。彼女たちからすると「女性に支援をしてくれるなんて思わなかった。UN Womenの支援は、私に希望を与え、自信につながった」と語ってくれたのを今でも覚えています。
これからの目標を教えてください。
これからも新しいことに挑戦してみたいです。今、現在世代や将来世代で大きな課題となっている環境問題をジェンダーの視点から支援することに興味があります。具体的なことはまで未定ですが、今12歳の娘がもう少し大きくなって独立出来れば、平和構築、人道支援の為に、また紛争地域へ出向きたいと思っています。フィールド経験を積んだことを本部の政策に反映させていく仕事も面白いかなと考えています。
UN Womenを目指す人にメッセージをお願いします。
UN Women の仕事といのはこれから世界で重要な仕事になると思うので、仕事というよりも自分がどのように世の中を変えていきたいと情熱をもってできると思っています。働くことで元気がもらえる事務所だと思っているので是非女性の地位向上や男女平等を推進したいと思っている方はUN Women に入って一緒に仕事しましょう。
ジョージア イメレテイ州クタイシ市にて、労働組合の代表と女性の経済貢献についての意見交換を行う石川かおりさん。(Photo credit: Leli Blagonravova/UN Women)