第8回:佐々木忍さん ニューヨーク本部 ジェンダー・パリティ・スペシャリスト

2021年3月29日 実施

佐々木忍さんは、2019年8月よりUN Womenニューヨーク本部にて、ジェンダー・パリティ・スペシャリストとして働いています。彼女のインタビュー記事をぜひご覧ください。

   

  Photo credit: Shinobu SASAKI

【経歴】

英国ダーラム大学政治学部卒業、同大学大学院東アジア研究科修士課程修了。初めての仕事は、外務省国際協力局国別第一課での国際協力インターン。その後、駐日英国大使館経済部アシスタントとして、G8洞爺湖サミットなどの運営サポートを担当。それらの職務経験から、グローバルイシューに興味を持つようになり、フランス国パリ政治学院修士課程で公共政策学、タイ国アジア工科大学院博士課程にてジェンダーと開発学を学び、修了。博士論文のテーマは、インフォーマル経済で働く女性の人間の安全保障。その後、難民を助ける会(AAR)タジキスタン事務所駐在員として、障がいを持つ子どもたちのためのインクルーシブ教育関連プロジェクトに携わったのち、2017年より国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部人事部でジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)となり、ダイバーシティ(多様性と調和)推進に従事。2019年より現職。


 

UN Womenで働こうと思ったのはなぜですか。

ジェンダー平等の分野に興味があったので、以前からUN Womenで働きたいと思っていました。博士課程を修了後、Junior Professional Officer(JPO)として、UNDP(国連開発計画)人事部のジェンダーと多様性分析官になり、ジェンダー・パリティ(組織全体、およびそれぞれのレベルにおける女性職員数と男性職員数を半々にすること)や、障がい者雇用、LGBITQ+啓蒙活動など、多様性と調和、また働きやすい環境作りに関する業務に携わりました。そういった分野での仕事にやりがいを感じていたところ、ちょうど、それらの知識や経験を活かせそうなポストをUN Womenに見つけ、今の部署に異動しました。

 

 

 

UN Womenでの仕事内容を教えてください。

現在は、UN Womenの中のOffice of the Focal Point for Women in the UN systemという部署に所属しています。前職のUNDPでの仕事もテーマは同じですが、以前は対象がUNDP内の職員だったのに対し、現在は、国連組織全体を対象としており、それぞれの国連機関(例えば、国連人口基金(UNFPA)、国連開発機関(UNDP)など)におけるジェンダー・パリティを達成するための支援・応援部隊のような部署です。

国連内のジェンダー・パリティについては、1970年代から国連決議案によって採択されており、1995年の北京宣言で2000年までに達成するように定められました。現在、国連職員のおおよそ44%は女性職員ですが、レベルが上に行くほど男性比率が高い、本部に比べ、現地事務所で働く女性職員の数が少ない、などの傾向が顕著です。

私の主な仕事は、グテレス国連事務総長が2017年に打ち出したSystem-wide Strategy on Gender Parity (仮訳:国連組織全体におけるジェンダー・パリティ戦略)」の実施です。この戦略の目的は、1)ジェンダー・パリティとは数の話であり、すべてのレベルにおいて、男女比を平等にすること、2)その数の達成のために、すべての職員にとって働きやすい組織文化を醸成させること、3)期限は、2028年までの達成を目指すこと、です。達成のためには、採用プロセスにおける無意識の偏見をなくすことや、人材の維持、確保、育成・キャリア形成などにおける女性職員へのサポート強化、また職場でのセクハラ・パワハラ予防策、対応策などが前提条件となり、そういった取り組みを通して、「組織文化の変容」を目指しています。

毎日の仕事内容としては、働きやすい組織文化を醸成するための具体的な取組み方法や、好事例などをまとめたガイドラインの作成や、その推進を担当しています。このガイドラインは、世界中にいる200人以上の国連職員から聞き取り調査を行い、作成したものです。また、それぞれの国連機関にいるジェンダー・パリティの担当官に対し、技術的なアドバイスをしたり、能力強化研修などを支援を行っています。ジェンダー・パリティ担当官というのは、多くの国連機関がある中で、それぞれの本部、地域、国事務所などでジェンダー分野を担当している人のことで、現在、国連組織全体に約450名いるのですが、日々彼らと連携、協働しつつ、仕事を進めています。

 

世界中のジェンダーパリティ担当官とともに。Photo credit: Shinobu SASAKI

 

その他、国連決議案にて、2年ごとに女性職員の地位について報告をすることが求められており、その事務総長報告書Secretary-General’s Report on the Improvement in the Status of Women in the UN system(仮訳:国連組織全体の女性の地位向上にかかる事務総長報告書)の取りまとめ作業も担当しています。

また、様々な国連加盟国と一緒に働く機会にも恵まれています。例えば、Group of Friends on Gender Parity(国連内のジェンダー・パリティを支援する国連加盟国ネットワーク)や、International Gender Champions (加盟国の代表者や、市民団体の長によるジェンダー・パリティ公約ネットワーク)と共に、育児休暇制度の拡充など、組織文化の変容に欠かせない重要な課題について議論をすすめるべく、会合開催の調整などにあたっています。

2021年ジェンダーパリティ会合にてグテレス事務総長と加盟国の代表者とともに。Photo credit: Shinobu SASAKI

 

 

 

仕事での難しさや、やりがいを教えてください

国連活動は多岐に亘り、そのすべての持続可能な開発目標においてジェンダー主流化(例えば、持続可能な開発目標SDG1「貧困をなくそう」では、貧国削減の進捗が男女間で一様でないことについても注視しつつ、問題点を洗い出し、男女それぞれのニーズに合った対策を講じること)が進められています。自分のライフワークに、ジェンダーという横断的なテーマを選んだことで、国連では、他の分野のことを学ぶ機会にも恵まれ、ジェンダーがいかに大切な視点であるかが感じられるとともに、職業人としても成長し続けることができ、そこに喜びや、やりがいを感じています。

ジェンダー平等への目標は、長期的なものであり、また直線的な進歩が見込めるわけでもないので、ふとした時に、どの程度目標に近づけているかについて、疑問に思うこともありますが、試行錯誤をしているその過程も重要な進歩だと捉えています。無論、仕事をする中で、すぐ目に見える結果が出たらいいな、と思うこともあるので、そういった意味では辛抱強さが求められますが、国連には価値観を同じくする同僚が沢山いますし、また、日本のニュースなどでも、「ジェンダー」という言葉を耳にする機会がグッと増え、仲間の輪が広がりつつあることを嬉しく思い、パワーをもらっています。

 

 

 

これからの目標を教えてください

国連で働きたいと思ったのは、社会的に脆弱な立場にある人々に寄り添う社会づくりを目指したいと思ったからで、その一つの側面がジェンダー平等をかなえた社会の在り方だと思っています。ちょうど今年で国連の仕事の5年目に入り、これまで一貫して、ジェンダー・パリティと多様性に関する仕事に携わらせてもらい、とても充実した職業人生を送っています。もうしばらく本部で勉強させてもらったら、その後は、ぜひ地域事務所や国事務所などで、それぞれの土地に求められている活動をしたいと考えています。また、ジェンダーのことは、多くの方に知っていただきたいと思っているので、そういった面でも活躍の場を広げられたらいいなと思っています。

 

 

 

UN Womenを目指す人にメッセージをお願いします

UN Womenは、ジェンダー平等と女性のエンパワメント(力をつけていく、引き出すという意味)の分野で、それぞれの地域文脈に根付いた丁寧な活動を行っています。また、産学官界の関係者とも日頃から闊達な議論を行っており、興味深い仕事ができるかと思います。全体的に女性職員が多いですが、男性職員やLGBTIQ+職員も歓迎されており、そのためか、多様性に富み、和気あいあいとして和やかな雰囲気の職場が多いのが、UN Womenの大きな魅力の一つです。

日本でもジェンダーに関する関心が高まっていますが、それは世界の流れともつながっています。UN Womenは、2020年に設立10周年を迎え、また1995年の北京宣言と北京行動綱領の採択から25周年を経て、今年はGeneration Equality Forumを開催しています。このフォーラムでは、これまでの女性のエンパワメントに関する進捗状況について見直しをし、また、今後どのようにSDG5「ジェンダー平等を実現しよう」を達成していくのかについて話し合うのですが、すべての世代の中でも、特に、次世代の人たちの参加に多くの期待が寄せられています。UN Womenには、多様性を重んじ、また次世代の人たちの価値観をどんどん取り入れていこうという柔軟な組織文化がありますので、これからJPOを目指す方や、また他の産業界から国際機関に移られたいと考えられている方にも、馴染みやすい組織かと思います。