「何も持たず、壊れた心を抱えて」

虐待から抜け出し、タランゴ女性シェルターでの穏やかで自信に満ち溢れた日々。ニパ・ナーズリーさんに宛てて書いた手紙を通し、ベグム・ファルザナ（仮名）さんは私たちをそんな旅へ連れて行ってくれます。

 

 

イラスト:Miho Watanabe

 

 

ナーズリーさんへ

  

あなたは私の人生の師です。あなたは私に、もっと違う生き方があることを教えてくれました。ずっと素敵な、私だけの新しい生き方があることを。

 

あなたが私を初めて見たのは、私がタランゴの女性シェルターに足を踏み入れたときでした。何も持たず、壊れた心を抱えて。私は傷つき、どうしたらいいのかわからず、おびえていました。でも他に行くあてはありませんでした。

 

今でも歯がゆいのです。どうして夫はずっと黙っていたんだろう。自分の父が、持参金(*1)のために妻を侮辱するのを横目に見ながら。堪え難い拷問で受けた私の傷を、夫はその沈黙でさらに深くえぐったのです。苦痛に耐えるたび、私は少しずつ自尊心を失っていきました。その自尊心がぐしゃぐしゃに踏み荒らされたあと、私にはなにも残っていませんでした。

 

覚えていますか？私が、3ヶ月間の縫製機械操作の職業訓練を終了できる自信がない、って泣き言を言ったときのこと。あなたは、大丈夫、絶対できるからまずやってみなさい、って背中を押してくれました。その励ましを聞いたら、私の中の不安はすぅっと消えたのです。職業訓練を受けることにしてよかったと思います。そこで私と同じような過去を持った、たくさんの女性に会ったから。彼女たちの目は、まっすぐ将来を見つめていました。そのとき私は自分に誓いました。もっとスキルを磨いて、自分の足で立つんだ、って。もう誰からの支配も受けない、って。

 

それからすぐ私は、別の3ヶ月の護身術クラスに申し込みました。思っていたより自分に体力があるって気づいたことと、ふたつの3ヶ月間の訓練を無事終了することができたことで、私は徐々に自信を取り戻していったのです。国際女性デーのイベントで、劇の上演をすることになったのは、そんな頃でした。もし私たちが最後までしっかり劇を終わらせたら、私たちを観光地に連れて行ってあげるよ、ってあなたは私たちを応援してくれました。ナーズリーさん、その日役者として舞台に立った私から、観客席に座るあなたが見えました。私に演じることができるなんて、考えたこともありませんでした。そしてタランゴが連れていってくれたヌハシュポリは、とっても楽しい思い出です。

 

あなたも知っているように、私は鬱を克服するのに少し時間がかかりました。心理カウンセリングのセッションで、シスター・グロリア先生に負の感情や精神的な疲労を吐き出しました。先生は、どうストレスと付き合っていけば良いか、どうやって傷ついた心を癒していくか、そして人生の意味について、立ち止まって考えてみることを教えてくれました。そうしたセッションを通し、私はようやく過去を乗り越えて、これから自分の人生を生きよう、と思えたのです。

 

タランゴで働けたらいいなっていつしか考えるようになりました。仕事場としての環境も好きだし、ナーズリーさん、私もあなたみたいになりたかったから。あなたのように、努力家で、他の女性に今までと違う人生を歩むよう勇気づけることができる人に。その夢の実現のために一生懸命頑張りました。あなたもそんな私を見守っていてくれましたね。そしてついこの間、その夢が叶ったのです。私はタランゴの技能労働者として、顧客のための新製品を開発する仕事(*2)を得ました。

 

あなたや、ここのみんなの後押しで、私は心の壁を打ち砕き、自信を取り戻すことができました。私だけではありません。いままで被害を受け弱い立場にいた、たくさんの女性や女の子たちが、安心と希望を見つけるのを、ここの屋根の下で見てきました。

  

私を信じてくれてありがとう。

  

ベグム・ファルザナより

 

記事の本文（英語）はこちら

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1 訳注：バングラデシュでは婚姻にあたって女性の家から男性の家に財産を送る習慣があり、価値の低い財産しか用立てることのできなかった女性の婚家での立場が弱くなり、男性側はそれをもって女性に対する虐待を正当化することがあります

２ 訳注：女性の貧困を救うためには経済的自立が必要不可欠、という想いのもと、タランゴでは女性シェルターのほか、フェアトレードなどを通じた女性の経済的なエンパワーメントのための活動を行なっています

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新型コロナウイルスのパンデミックの最中、日本政府の資金提供を受け、タランゴはUN Women（国連女性機関）とのパートナーシップを通し、暴力被害女性への必要不可欠な支援サービスと経済エンパワーメントのための支援サービスを組み合わせた、新しいシェルターモデルを展開しました。

暴力を経験している女性や女の子たちに、包括的で質の高いサービスを提供するためのガイドラインであるエッセンシャル・サービス・パッケージを取り入れたタランゴの女性シェルターの成功と学びに基づき、UN Womenは統合シェルターモデルのツールキットを作成し、バングラデシュ全国のシェルターで展開していきます 。これは、UN Womenが取り組んでいる、女性と女の子たちに対する暴力における必要不可欠な支援サービスの一環です。